JOURNEYの代表作といえば、世間的には問答無用でこれの次作「FRONTIERS」。バンド最大のヒット曲"Separate Ways"は、今や歌メロを無残なシンセリードに置き換えられて、どこの街のイオンでも聴くことができるかと思います。だがしかし、AC/DCも「BACK IN BLACK」の前に「HIGHWAY TO HELL」があり、TNTも「INTUITION」の前に「TELL NO TALES」がありと、『凄く上り調子を感じさせる超充実盤』と『前作の成功で得た気運に乗って、出来上がった砂の城をひたすらポンポン押し固め続けたダメ押し盤』の評価がしばしば逆転するということが世の中にはある。(自分だけが「できたてこそ最高」病なのかも知れない。)ワタシとしては、この「ESCAPE」こそ完全無欠なJOURNEYの最高傑作と思っております。
更に突っ込むと、アレンジと作曲の不可分な蜜月関係、ここが本当にすごいです。例えば"Still They Ride"のサビ。ギターとピアノのユニゾンフレーズをヴォーカルで追うことでひとつのメロディとして完成していて、繰り返しの2度目は微妙にルート進行が変わるので同じ節回しも少し違って聴こえるという風流の心。そしてたるみを一切作らない変則的な小節数。こういうの、作る側はただ感覚的にシックリいくようにひねったり切り落としたりするだけなんでしょうが、最小限の材料で最高のパフォーマンスを叩き出すこの嗅覚は、よくよく検証するにも値します。BAD ENGLISHやHARDLINEで感じたことはないので恐らくジョナサン・ケイン(Key.)の手腕なのでしょう。
プログレハードである
これがリリースされた81年という時代は、元プログレの大物達が新時代の幕開けに乗っかって、ちょっと小難しいフックをポップスに盛り込む「プログレハード」(恐らく日本の、HM/HRリスナーの間だけの用語)がバリバリに全盛の時代であったので、この作品でもちょくちょくその片鱗を発見できます。"Stone In Love"のアウトロ然り。最たる例はタイトルトラックの"Escape"で、これは1曲の中に2曲あるような展開がたいへん不思議です。どこをサビと呼んでいいか分からないけど、全体を通して確実に高揚しているという。途中と最後に切り込む16分裏のシンコペが攻めまくってて実にかっこいいです。RUSHが「HOLD YOUR FIRE」で完成させたテクニカル変拍子と産業ポップスとの融合も、このアルバムがいくらかの影響を与えたんじゃないでしょうか?
歌唱力の伸びと声質の変化のめぐり合わせ
まだ続きます。このアルバムを聴いたあとで、間をおかずに2枚後の「RAISED ON RADIO」を聴くと、ヴォーカルの声質に男らしい太さやざらつきさが若干ながら加わっていることに気付くと思います。「FRONTIERS」もその変化の過程にあるわけで、となるとこの「ESCAPE」がちょうど、いわゆる後年のメロハーバンド達が標榜するところの「キーキー甲高くてハスキーなスティーヴ・ペリー・ハイトーン」の極致をとらえた録音なのではないかと思えます。決して暴発気味になることなく、まさに全盛という艶の乗った高音を聴かせてくれます。スピッツでもヘナヘナ期→口閉じ気味期→第一次大成期→明らかに発生が変わった大物シンガー期のどれが好きかというのがあると思いますので、完全に好みの世界ですが。