SCSIDNIKUFESIN

6 Dec, 2012

▼ここのところの話題が主に食・子供・機材と、とてもドメスティックであります。外界との関わりは長らく薄いですが、名前をさんざん見かける国内バンドとかは人知れずYoutubeで聴いたりして、そうかあ~と感銘を受けたりしています。局所的には比較的いい感じの流れがあるんじゃないでしょうか最近は。すぐ情報が回ってしまうせいか、徒党が出来上がるのも早い気がしますが。認知される過程にあっては安全な居場所になるけど、「そういうものがあるね」とおおかたの人がはっきり確認した時点で行き詰まりの始まりになるというか。種類が多い上にサイクルが早くて、今はたいへんな時代です。後戻りもしないんだろうし。アイデンティティは表層の一枚・二枚奥に持つべし。ANTHRAXから教わったことです。
さておき、馴染みのないものに出会ったときがやはり一番、脳の意外なところが動く感じがあるので、「いまさら新規開拓しても心から愛せるようにはならない」のはそうとして、化石にならない程度には今あるものにもキャッチアップしていきたい所存です。以前得三で戸田誠司(ex.フェアチャイルド)のライブ見たときも、何の問題もなく尖ってたもんなー。
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本日の思いの丈:JOURNEY「ESCAPE」

これをムスメに聴かせると不機嫌・大泣きetc.がスッと直ることが多くて、ほとんど毎日、しかもほぼ全編聴いてます。同じアルバムをこれだけ聴き続けるのは中学校以来かもしれない。で、何度聴いても飽きないどころか、うーんここが良いわーとじっくり耳で追いながら聴き入ってしまって、現在の私的瞬間最大ベスト音楽作品を選ぶならこれになってしまいそうなくらい傾倒してるので、今更のド定番ですがここにご登場願うことにしました。以下、レビューでも何でもない個人的な賞賛です。

「最高傑作」の座をめぐる考え

JOURNEYの代表作といえば、世間的には問答無用でこれの次作「FRONTIERS」。バンド最大のヒット曲"Separate Ways"は、今や歌メロを無残なシンセリードに置き換えられて、どこの街のイオンでも聴くことができるかと思います。だがしかし、AC/DCも「BACK IN BLACK」の前に「HIGHWAY TO HELL」があり、TNTも「INTUITION」の前に「TELL NO TALES」がありと、『凄く上り調子を感じさせる超充実盤』と『前作の成功で得た気運に乗って、出来上がった砂の城をひたすらポンポン押し固め続けたダメ押し盤』の評価がしばしば逆転するということが世の中にはある。(自分だけが「できたてこそ最高」病なのかも知れない。)ワタシとしては、この「ESCAPE」こそ完全無欠なJOURNEYの最高傑作と思っております。

意義ある全10曲

目立つシングル曲の素晴らしさは言うに及ばず、それらの曲を全体の中の程良いマイルストーンにして、その前後や中間のすべての曲がそれぞれに最高の役割を担っているという無駄のなさ。決して適当な捨て曲で息を抜くのではなく、クールダウンも最上級。大きなストーリーを一章ずつ進むような感覚ですね。個人的な信条として、「アルバムたるもの、『カブってる曲はひとまとめに集約してトータル5~6曲とかにしといたほうが良かったんじゃない?』とならないものが望ましい」というのがあるので(全部同じ=全部最高、てのも往々にしてありますが)、その点で本当に理想の洗練度。

卓越したトータル・コンポジション

更に突っ込むと、アレンジと作曲の不可分な蜜月関係、ここが本当にすごいです。例えば"Still They Ride"のサビ。ギターとピアノのユニゾンフレーズをヴォーカルで追うことでひとつのメロディとして完成していて、繰り返しの2度目は微妙にルート進行が変わるので同じ節回しも少し違って聴こえるという風流の心。そしてたるみを一切作らない変則的な小節数。こういうの、作る側はただ感覚的にシックリいくようにひねったり切り落としたりするだけなんでしょうが、最小限の材料で最高のパフォーマンスを叩き出すこの嗅覚は、よくよく検証するにも値します。BAD ENGLISHやHARDLINEで感じたことはないので恐らくジョナサン・ケイン(Key.)の手腕なのでしょう。

プログレハードである

これがリリースされた81年という時代は、元プログレの大物達が新時代の幕開けに乗っかって、ちょっと小難しいフックをポップスに盛り込む「プログレハード」(恐らく日本の、HM/HRリスナーの間だけの用語)がバリバリに全盛の時代であったので、この作品でもちょくちょくその片鱗を発見できます。"Stone In Love"のアウトロ然り。最たる例はタイトルトラックの"Escape"で、これは1曲の中に2曲あるような展開がたいへん不思議です。どこをサビと呼んでいいか分からないけど、全体を通して確実に高揚しているという。途中と最後に切り込む16分裏のシンコペが攻めまくってて実にかっこいいです。RUSHが「HOLD YOUR FIRE」で完成させたテクニカル変拍子と産業ポップスとの融合も、このアルバムがいくらかの影響を与えたんじゃないでしょうか?

歌唱力の伸びと声質の変化のめぐり合わせ

まだ続きます。このアルバムを聴いたあとで、間をおかずに2枚後の「RAISED ON RADIO」を聴くと、ヴォーカルの声質に男らしい太さやざらつきさが若干ながら加わっていることに気付くと思います。「FRONTIERS」もその変化の過程にあるわけで、となるとこの「ESCAPE」がちょうど、いわゆる後年のメロハーバンド達が標榜するところの「キーキー甲高くてハスキーなスティーヴ・ペリー・ハイトーン」の極致をとらえた録音なのではないかと思えます。決して暴発気味になることなく、まさに全盛という艶の乗った高音を聴かせてくれます。スピッツでもヘナヘナ期→口閉じ気味期→第一次大成期→明らかに発生が変わった大物シンガー期のどれが好きかというのがあると思いますので、完全に好みの世界ですが。

不思議と重くない

きょうび、アルバム終盤にバラードがあるとしたら、最後の最後よりも1・2曲前にあることのほうが多いはず。聖飢魔IIか誰かの昔のインタビューでも、「『ハァ終わった』より『よっしゃもう一周』という気になるから、最後に威勢のいい曲をもってくる」という意味合いの発言があったと記憶しています。だがしかし、緩急満点・無駄ゼロで進んできたこのアルバムは、お疲れ様でしたとばかりに堂々たるバラード"Open Arms"で終幕します。それでいて余裕で即リピートできそうなこのカロヤカさは、合計42分台という手短な尺と、スッと通りのよいメジャーキーの曲がほぼ全体を占めているお陰じゃないかと思います。豊かではあるが濃すぎない。身構えいらずの充実感。これは長く広く普段使いで愛される芸術作品を生み出す上で、かなりの理想だと考えます。(むろんいろんな種類があります)
シメもへったくれもないのでYoutubeのリンクを埋めて終わります。聴いてください。