セスが亡くなった件についてノータッチでした。ああいう人の死を直球で悼むことが当人への弔いになるのかどうか、よくわからんですが、人生ごと壮大なネタだったことにしてしまうことのほうが敬意を表すことになる気もします。メタラーでなくても耳にしたことがある人も多いひどいバンド名、アナル・カント。デスメタルがこの世に生まれ出でて間もないうちからさっさとその極端性を対象化して、はじめ!ヤメ!が断続的に入る超きたない大食い競争の如きグラインドノイズを体現してしまった最初の瞬間に、その存在意義をすべて全うしたという意見もあります。「5,643 SONG EP」と銘打って、ショートカットノイズが本当に5千曲以上入っているかと思ったら、L63からR63までぎっしり使って大量の曲が同時再生されるというふざけたアイディアを誰が思いついたでしょうか。
やろうと思えば意外に誰でもできそうなこのメタル風ノイズ、彼らだけ何がスペシャルだったのか…と考えることがあります。適当で単純なようで、同じ次元で挑んだら完全に真似になるしかないから誰もあとに続かなかったというのもあるでしょうし、形態とか流儀とかいうものをあらゆる角度から徹底的に蹂躙してやろうという悪意とニヤつきはやはり突き抜けていた気がします。
この1stフル(92年)ではリフらしきものの形も少しずつ現れてきていて、「曲に見せかけてノイズ」という遊びとか、まともにまとめる意思が特にないただのスラッジ風チューンなども混じっています。それも悪くない。デビュー作で様式を完全に確立したあとは「1枚のアルバムに異常な曲数を詰め込む」のと「最低な曲名をつける」のに磨きをかけることで、誇らしき最強のゴミというポジションをほしいままにしていたと思います。1度だけ見たライブは面白かった。在りし日のセス、キメ場で腹と口と交互にマイクを当てたりしてたけど、腹からも何か出ていた気がします。