ログメンは2009~11年頃にまとまったライブ活動をしたあと、解散や休止を謳うでもなく特に何もしない数年間があった。そこから活動再開することになったきっかけとなったのが、名古屋近郊在住の宅録アーティスト、およびバンドに所属する人のサイドプロジェクトやソロに絞った2枚組コンピレーション「ナゴミハイツ」。ログメンはそこに、『コーヒーの話はしない』にも収録されている“ステイルメイト”の別テイクを提供している。
今回のインタビューの聞き手・福沢氏はその「ナゴミハイツ」の制作主宰者。自身もミュージシャンであり(Dinner Set、フクラ本舗、マイギーとふくざわ等で活動)、 ブランク以前のログメンと共演歴があるだけでなく、ドラマーとして一度ライブにフルでご参加願ったこともある。
そうした立場から、生身の演奏で楽曲に取り組むことの実際や、曲・アンサンブルそのものを作り出す背景の部分について、結成からこれまでの出来事も交えながら聞き出していただいた。
なお今回は、福沢氏と活動初期から関わりがあり、ログメンと共同でCD発売記念イベントを企画した名古屋在住のソロミュージシャン・kiiiu氏(ログメンと同じ12月16日に初の単独音源「seibutsu」をリリース)も同席している。収録日はイベント開催の2週間ほど前である点をご留意されたい。
01 曲とアンサンブルの構造
- 杉山明弘(以下 杉) 出来上がった音源、パッと聞いて最も気になった部分はある?
- 福沢幸久氏(以下 福) やっぱり構造ですよ、ログメンは。そもそも出来上がってるものを何とかして二人でやりきるっていう。普通に聴いたら打ち込みじゃないですか?ライブでは結構トラブルありきで(笑)まあそこが面白いんですが、音源になることではっきりとした構造が提示されて、「あぁ、こういう事やりたかったんだ」っていうのがよくわかって。
- 星裕久(以下 星) ライブではそんなにも構造分からなかった?これがサビだったのか!とか?
- 福 いやいや(笑)ライブでもすごい聴いてるから!でも新曲もありますもんね?
- 星 うん、再開後ぱたぱたっと3曲増えて。だからよく見てくれてる人たちにも、多少は新鮮感のある音源になってたらいいなーと思ってるんだけど。
- 福
新しめの曲も含めて、よく出来てるなあと思ってます。ライブの卓上で使われてる楽器もちゃんと入ってて、アナログな雰囲気があって。昔、ドラムを一回だけ叩かせてもらった時あったじゃないですか?その時にもらった、杉山さんが一人で打ち込んだデモも聴いてるけど、今回の音源はちゃんと二人の音っていう感じがして暖かいです。
僕、一時期は「ライブと音源は別物」っていう考え方だったんですよね。「音源は大それた作り込みがしてあってもいいんじゃないか」って思ってたんですけど、でもそれは若い頃で、今はどっちにもがっかりしたくないんですよ。音源は音源で良く出来ててほしいけど、ライブを見てもやっぱりドキドキしたいなって思ってます。
自分のソロを作ったときも、ある程度のクオリティは望みたいんですけど、やっぱり生でドラム録るとか、歌うとかってなるとあるじゃないですか、越えられないなんというかその…不甲斐なさというか…(笑)でもそういうのはその人の味というか世界ともなると思うんで。逆に完璧すぎる物を提示されると入り込みにくいって最近では思ってて、そのバランスがすごくいいんじゃないかと思う、ログメンは。すごく絶妙。 - 杉 ライン出力からそのまま録れる楽器ばっかりだし、整えようと思えば編集や打ち込みでいくらでもやれるから、生身のバンド感をいかに残すかは確かに気を遣ったとこなんだけど、ちょうどよく聞こえたんだったら良かった。
- 星 前は杉山君が打ち込みで作る練習用のデモ音源の段階で「もうこれで完成じゃん」って思いながらやってたけど。最近はそこまでの出来じゃないものから始まる流れになったかも。
- 福 じゃあ、ちょっと変わりつつある?
- 星
ブランクを挟んだ後は少し違う気持ちでやれてる感覚がある。ここのところ、ありがたい事に続けてライブの機会に恵まれて、「意外と演奏大丈夫だね」ってなり、じゃあこれ足せるかな?あれもやってみよう、みたいな感じでちょっとずつ進化して、この音源に入ってる形になった。…まあこれでもう出せる全部なんだけど(笑)
例えば1曲目“ネイティブアメリカンの友人”は、空いた手で何か入れるとかってことが長らく不可能な曲だったけど、最近合間に鉄琴とか叩けるように工夫しだして、音源はそのバージョンが入ってる。ライブでまだ間違えなかった試しはないけど(笑) - 福 僕も、ドラムで参加させてもらった時、その曲のリズムがもう掴めなくて。あれすごいっすよね。何拍子なんですか?途中で変わったりしますよね?
- 杉 何拍子と言われてもって感じかな。数えてないっていうか、フレーズのまんまっていうか。
- 星 でも杉山君自身はあんまり変だと思ってないんでしょ?自然にこうあるべきだと思って作ってる、みたいに言ってたよね。
- 杉 半端な拍だって事はもちろん認識してるけど。1回目はこの数だったから次は一個減らそうとか、そんだけの出来心でやってる。他の人にしてみればめちゃめちゃトリッキーなのかな。
- 福 僕、メタル好きの友人がいるんですけど、「上手い人しか認めない」みたいなその彼が、ログメン見てすごい感動してたんですよ。
- 杉星 えええー!?
- 福 あれはすごいですねって。だから分かる人には分かるのかなって、構造的な事がね。
- 杉 演奏がうまくいってるかはさておき、入り組んだ楽曲をやろうとしてるってのが伝わったのかな。多分そういう人は、拍を数えたりしようとするから。自分も人のライブ見ると、いち早く奇数拍子の曲で適切に首を振ったりしようとするし(笑)よし掴んだみたいな。
- 星 ログメンにもそれあるのかな?
- 福 ありますよ!めちゃくちゃある!だから、“ネイティブ~”が掴めなかった時は、俺、もうちょっと勉強しなきゃいけないんだっていう気持ちで、ちょっと悔しかったですね。(笑)本番は何とか叩きましたけど、冷や汗しか出なかった…
- 星
一旦間違ったら何もわからなくなっちゃうしね、あの曲は。
しかし福沢君は基本はドラマーじゃない?難しい拍子以外の演奏面で、ドラマーの人に評価されるような所はあるんかな?グルーヴなんて… - 杉 グルーブはもうかけらもない!グルーヴどこいった!って思いながらミックスしてたからね、特にこのドラマー(=自分)最悪!って。
- 福 (笑)でも要するに、いままで言ってきたその構造自体がもうグルーヴだと思うんですよ僕は。
- 星 …ええと、テトリスを下手な人がプレイしてるなと思って笑ってたけど、終わって立ち去った瞬間実は組み上がったパーツでドット絵ができていた!みたいな?
- 福 そうそう、そんな感じですよ。隙間があるけど的確に欲しい音が入ってる。チープっちゃチープなんですけど、やってる事はかなり立体的だし、頭も使うし。
02 曲の体現手法の確立、背景となる哲学
- 星 そういえば福沢君が「ナゴミハイツ」の収録バンドとして僕らを推してくれた時の話を聞きたいんだけど。
- 福 スタッフ皆で月に1回ミーティングをしたんですけど、その中で、自分が収録したいアーティストを発表する日があったんです。kiiiuちゃんとか色々挙がって、僕が「ログメン」!って言ったら、なぐぁさん(註:名古屋のイベンター/イラストレーター・松永則昭氏)に「(先に言われて)まじっすか!」って言われたのすごい覚えてる。ほかの出席者はあんまりログメンのこと知らなくて、デモ聴かせたら、声がすてきーって、それぐらいみんなには知られてなかった。
- 星 僕らは福沢君に覚えててもらえただけでも嬉しいけどね。できたら何がそんなに、わざわざ推してくれる要素だったのか、この機会に聞いておいて喜びたいなって。(笑)
- 福 いや、絶対的唯一無二だと思うんですよ。こういう事をやってる人を探す方が難しい。僕自身がかつてやりたかったのが体現する打ち込みみたいな事なんです。打ち込みとして完成されたものをちゃんと体現できるアーティストになりたいな、そういう事をやれたらいいなと思っていたら、もう完全にやられてた。見た瞬間にこれは「体現するマルチプレイ」で、マルチを超えてすらいるなと。
- 星 ありがとうとっても喜べます(笑)プレイスタイルそのものに関して言えば、机で向かい合うスタイルがひょっとして流行るんじゃないかな?って思ってた所があるんだけど、全く流行らなかった。
- 福 僕もカクテルドラム使ってたじゃないですか?実はあれも流行るな、早めに使っとこうかなって思ってたんですけど、全く流行らなかった(笑)
- 星 流行りって読めないよね…ていうか実際にはどちらも準備が面倒だからだと思う。
- 福
でも面倒くさい事を敢えてやるっていうスタイルに僕は惹かれるんだと思うんです。人って面倒くさい事やれないじゃないですか。いちいち持って来てやるとか。だから紙コップスも好きなんですよ。いちいち犬小屋とか持ってくるし(註:紙コップスは樹脂製の犬小屋をバスドラムに見立てた手作りのドラムセットを使用する)。いちいち全部弾こうとする姿勢とか、わざわざトラブる事をやる内容全部ひっくるめて美しいなと。
で、打ち込みの話に戻るんですけど、僕打ち込みの音楽って大好きだったんです。そういうアーティストが名古屋に来るってなったら見に行くんですけど、ライブは結局みんなカラオケなんですよ。でも自分がやるなら、カラオケは避けたいなって。 - 星 ほーほーなるほど。パッドやボタンを押しまくるっていうのもありだけど、やっぱりそういう行為以上になんらか、ライブとして体現する部分は欲しくなるよね。
- 福 カラオケ、バンド、みたいなところで自分の測り方があるとしたら、いい具合の所をログメンは攻めてる。っていうかむしろこれ以上は無いんじゃないかと。
- 杉
日本のライブハウスシーンでは珍しいとは思うけど、そもそもここまでの事を考え出したきっかけっていうのが、アメリカのインディロック系の人たちが2000年代前半にはかなり頻繁に、自分たちも演奏するようなサイズの会場に来てて、マルチプレイヤーの演奏を結構見たの。バスドラの上をまたぐ形でシンセをセットして演奏して、めちゃくちゃドラムもキーボードも上手いの。(註:MAKE BELIEVEのネイト・キンセラのこと)
あとは、ドラムセットの中に座って、ギター弾きながら横にオルガンをセットして、手首からはスティックがぶら下がってて、オルガンの持続音なんかを利用しながらバンドにしか聞こえない演奏をしたりとか。(註:LONESOME ORGANISTのこと)
その頃はまだ大規模に売れてもいないインディアーティストをがつがつ呼んでもお客さんが結構入る時代だったから、色々見れた。バンド内で曲中にタンバリンを放り投げ合って、手の空いてる人が叩いたりとかね(笑)そもそもギターと肩掛けシンセ両方セットみたいな状態で出てきて。(註:Q AND NOT Uのこと)海外には結構いるはずなんですよ。だから、やろうと思えばできるんだなと思ってやってる。彼等の、人間離れしたようなレベルからすれば、ログメンはまだ「さあ、やってみよう~」くらいのもので。そういう人達が先にいる中で、自分らを「スタイルが独自」と言われるとちょっと(言われた自分達を)恥ずかしく思うとこもある。 - 福 なるほど、掘り下げると色々出てくるって事ですね。そういうルーツがあるんですねえー。
- 星 最初の曲を作る時からそのイメージで作った?二人でやれる範囲でって。
- 杉 星君がライブで一人多重演奏してるのを見たことがあったから、それ×2で変わった風にできそうだとは思った。
- 星 僕も昔杉山君ひとりの演奏を見たけど、その時杉山君は確か両足にウクレレとキーボードをくくり付けてたよ。ギター持って。
- 福 ええ!それどうやって弾くの!?
- 杉 いやウクレレは、練習用ドラムのキックペダルをその横に置いといて、ペダルを踏んでコンコン叩く。音としてはキックじゃなくてスネアなの。そのペダルが、踏んでるうちにどんどん向きが回転したりして…
- 星 ギター弾いてる合間に、足にくくりつけたキーボードを頑張って弾こうとしてるんだけど決してうまくいかないっていう演奏だった(笑)
- 福 ログメンって何かそういう所、チャレンジ精神がすごい(笑)それで成功したからやるとかじゃなくて、分かんないけどこれでいこうみたいな。そういえば、僕見に行けなかったんだけど覚王山LARDERでのライブとか。
- kiiiu氏(以下 ki) あ、私行きました。
- 福 行ってたよね?行きたかったけど行けなかったから悔しくてツイッターで見てたんですけど、「火花が散ってるんですが、ログメンって普段からこんな感じなんでしょうか?」みたいな感想を見かけて、めちゃくちゃ見たかったなぁと思って…。
- ki 私、一番近くで見てて、その時まだログメンをライブで見るのが2回目だったから、もうド興奮して一番近くで見ようと思って星さんの真後ろくらいの所に座って。そしたらおもむろに星さんが本番の演奏中、覚王山の夕方の街に出て行って、外で煙がばーって。(笑)
- 杉 “ステイルメイト”っていう曲の間奏部分で、星君が何でもいいからノイズを出すみたいな時間があって、普段はシンバルを地面でコマみたいに回してグワングワン言わせるとかやってるんだけど、その日は予告も無しに、外に出て行って鉄パイプをグラインダーで切断しだして。
- 星 全ネジを、何本か切りましたね。(笑)この環境ならできるって思っておもいきって。(註:演奏場所のすぐ近くに出入口があり、ガラス戸なので客席からも見える)
- 杉
さすがにちょっと動揺して、その後の演奏がひどかった。(笑) いつもMCで自分はボケ役だから、ステージでは笑わないように努めてるんだけど、笑っちゃった。
この件はオチがあって、一応安全のために店の外に出てドアを閉めてやったんだけど、もう絵面だけで全く音が聞こえないっていう。インダストリアルノイズが乗ってくる気持ちでやったんだろうけど、ただのお騒がせパフォーマンスアートみたいになってた。 - 星 ほんとはね、あれ切るとキーーーンっていうすごくいい音がするんだ。でも終わったあと店主の丹羽さんが「サイレント映画みたいで綺麗だったよ!」って。
- 全員 (笑)
- ki 客席からは、「何かが起こってるね!?」っていう感想でした(笑)
- 福 そういう所からも、何かやらかしてくれるって期待しちゃう。“コーヒー”もドリルのモーター音をループにして流すとか、すごいなって思ってて。
- ki 星さんのよく分からない謎の引き出しが面白い。あと物に対する愛情がすごいなって思う。物言わぬモノ達の扱いがとても素敵だなって私は思うんですよ。
- 星 ええと、どういうことかな?(笑)
- ki んー何て言うんだろうな…無機物に対する愛情がとてもある…
- 杉 その物本来の機能・性質ではない所にも光を当てて、コイツを活用してやろうという気持ちがあるって、そういう事でございますね。
- 星 なるほど。今後の参考にさせて頂きます。(笑)
- 杉 最初は凄く最小限の物量でやりくりしてたんだけどね。唯一のウワモノ楽器として手元にあった白いカシオトーン(PT-80)は、キーボード部分が単音しか鳴らないからすごい制約だった。左の方に3和音が鳴るコード用のボタンがあるんだけど…
- 星 あれだけが僕らの和音の拠り所だったね(笑)あとは和音は出るけど、ベース役になってるからほかの音は出せないMicroKORGと。最初はシンバルすらなくて、鉄板を2枚重ね合わせたやつだった。
- 杉 あったね。クシャッって鳴るだけの金物。それが竹串の束に置き換わったんじゃないかな?ハット代わりに。
- ki あれはもう序盤からあったんですか!?私、竹串を最初ライブで見た時に衝撃で…竹串だ!と思って、でもすごいいい音がするんで。あいつの存在感はすごいですよね。
- 杉 結構ヌケるでしょ、チャッって。曲なんて「どぅっ」ってのと「コン」ってのと「チャッ」ってのと、あとベースラインとメロディ、コードが鳴れば、4人・5人と楽器持って集まらなくても成り立つんじゃない?っていう気持ちの結実したものでもある。ログメンは。
- 福 確かに、“ルームサービス”の、これ言っていいのか分からないんですけど、CDの最後にバージョン違いのおまけが入ってますよね。どこまで演奏を変えてるんだろうと思ってよく聴いたら、竹串は叩いてますよね。
- 杉 うん、ドラムトラックはキックを増やした以外そのまま。
- 福 でも違和感ないってのがすごいです。だから、それもやろうと思えばそれで通るって事なんですよね。
- 星 ボーナストラックの豪華さを聴いて、杉山君は頭の中でこれをイメージしながら“ルームサービス”をいつもやってるんだって思ったら泣けるよ。普段のサビのメインフレーズはあの「ペーペペポ~」だし(笑)
- 福 (笑)あれはあれで大好きですけどね。アルバムをちゃんと聞かせてもらう前に“ルームサービス”は絶対最後だろうなって思ってたんです。本編では最後から2曲目じゃないですか?次の“ディクタフォン”でちょっとしんみり終わる。なるほどって思ったんですけど、その後ちゃんと豪華バージョンの“ルームサービス”が流れて来たんで、また気持ちが持ち上がる、それでいてラウド。
- 杉
最初はボーナストラックを入れようっていうプランはなかったんだけど。8月にライブした時に、別の出番でギターを使う予定があったから、それをログメンでも使って何曲かやろうって。そしたら“ルームサービス”は、思いのほかグランジになったっていう。
その時発見したんであって、別に最初からイメージがあれだった訳じゃなかったんだよ。この良さはちょっとほっとけんな…って思って、収録することにして豪華に仕上げちゃった。サビにいく時、ディストーションギターがヴォーってフェイドインする所とか、あれだけ別で重ねてるからね(笑) - 星 そうなんだ!あのバージョンはほんとに出来良かった。
- 杉 いいのが出来たよね。90年代のアメリカのカレッジチャートで流行る。もう遅い。(笑)
(つづく)