03 「別次元パート」とアルバムの全体観、ボーカルについて
- 高 一曲一曲の中では、自分の中で「別次元に行くパート」みたいな感じに思ってるんだけど、なんて言ったらいいんだろうね。間奏みたいなやつ。この曲(裏ジャケの“デート”を指さす)だったらアルベジオみたいなのあるじゃないですか。バイエルのような。あれってどっから来てるんだろうね?この曲もこの曲も、結構ある。
- 杉 間奏が長いというか、インストパートのフレーズで曲が進むのはプログレからの影響でしょうね。
- 高 うん、プログレ感みたいなのをすごく感じて、“ルームサービス”くらいかな?割と普通の感じの曲調。でも他はプログレ感みたいのがすごくあるんだけど、中だるみさせない聴かせ方みたいなのは…
- 星 それはもう杉山君の猛烈なこだわりが。ほんと覚えるの大変(笑)
- 杉 キリのいい倍数より一周多く繰り返すとか…
- 高 その辺は色んな聴き手を置いていかない、配慮、なのかな?
- 星 “コーヒー”の後半とかって、僕はやっててこれ聴いてるお客さんついてこれるのかなぁとか、すごい思いますけどね。この部分結構長いじゃないですか。
- 高 これはありでしょう。まず音の気持ち良さみたいなので聞けちゃう所もあるし、この曲単体でっていうより、次の曲への流れもあるっていうか。その次の始まりで、この部分の長さが効いてくる。
- 星 なるほど!そういう感じ方も。この曲はわりと最近杉山君が「できたから!」って持ってきたやつなんですけど、前半に歌ちょこっとしかないじゃないですか?後半は自由度の高い所があって、これでいいのかなと思ってやってみたら思いがけずすぐにしっくりきて、あ、これは長らく地味に活動してきたけど、集大成的な所があるなーと思ったんですよね。
- 杉 新機軸じゃなくて?
- 星 うん、なんかログメンらしいっていう感じが。すごいしっくりきた。この後半の長さは褒めてもらえるとすごい嬉しいけど、杉山君が何を思ってこの部分を作ってきたのか、せっかくだし知りたいな。
- 杉 なんだろうな。展開フェチなので、ここでキーがちょっと落ちるとか、そういう特定の場面をとにかくやりたいっていう欲があって、それを重視するとその続きに困るみたいな事が起こるんですよね。この曲に関しては、更なる展開をつけ足すのは蛇足だなと感じたので、もうわーっと回して終わりだと判断したんです。
- 高 行くけど戻ってくる曲もあるし、行きっぱなしのもあるっていう感じは、飽きさせない事に繋がるかなって。
- 星 そうですね。“ゴンドラ”は途中猛烈なカオスになりますけど戻りますよね。
- 杉
なんかこう、全曲主役っぽくして綺麗に終わらせた曲ばかりのアルバムって、途中からもうそれ以上いい曲登録できません!みたいになってくるので、色んな方に振った曲があってもいいかなって思って。半端なものは半端なままで。
異次元パートがある曲で初期に出来たのは“ステイルメイト”で、自分としては色んなものを盛り込むつもりは特になく作ったんですけど、スカスカな部分に星君がどんどん色んな小道具を入れてくるので、そのうち「星君が何かやってくれるタイム」みたいなのを想定して作るようになった。 - 星 はーそういう事だったんですか!(笑)
- 高
勝手な深読みをするとさ、「ステイルメイト」って言葉の意味合いみたいなものあるじゃないですか。日本語で言うと膠着状態。間奏部分はその膠着状態を示しておるのかなって。それより前までの歌詞で、色々解決しそうな材料が目の前にあるのに、いや!分からん!っていう(笑)
で、またひらめくような事が出てくる。出てくるのにやっぱり分からん!っていう(笑) - 星 あーなんかそう言われたら…
- 杉 美しい解説だねこれは(笑)ステイルメイトがどんな意味だったかも、言われるまで忘れてたのに。チェスの用語としか。王手みたいなやつでしたっけ?
- 星 そう、どっちもコマを動かせなくなっちゃう千日手みたいなね。確かにこのぐーっとテンションが下がる感じとか、「関連性があるなー」って散々言った挙句に、いややっぱり分かんねーなって感じありますね(笑)でもこの曲、地味に杉山君のコード感の綺麗さがすごくありますよね。
- 杉 もうこれプログレっていうか、GENESISですね。ひねった和音の出元は。
- 高
うーん、そうか。でも、さらっと聴かされてしまう。
“ステイルメイト”って「ナゴミハイツ」(別テイクの“ステイルメイト”が収録されたコンピレーションCD)に提供したものとは別に録り直してる? - 杉 はい、完全に録り直してます。ナゴミハイツバージョンは間奏部分の途中も無いんですよ。そこは明らかに寂しくて、でももう納期も迫ってるし、追加できる音も無いしでカットの方向に。
- 星 でもあの時録ったのに比べると驚くほどスムーズにしっくり仕上がったよね。
- 杉 別に使ってる楽器はさほど変わらないのに。今回は意外と早く音が決まって。
- 高 あとやっぱりライブがベースになってるから、使える音色が限られてる中で作られているなーとは思うんだけど、結構色彩豊かだよね、どの曲も。
- 杉 それは気をつけてますね。
- 高 その塩梅みたいなのがくどくない。さりげなく、いい和声が散りばめられてるんですよ。
- 杉星 おお…
- 星 杉山君の曲のハーモニーの良さって、杉山君のやる何を取っても自然にそう思いますよね。DOIMOIもそうですし。
- 高 その辺をあんまり意識させない。
- 杉 調性的にテクニカルな技法を使いました!っていう風には、しないようにしてます。必然性ありき。
- 高 だから聴いてる方の意識下の所に響かせてる感じがするね。後から徐々に効いてくるなーって思う。
- 星 サビですよ、いいコーラスが入りますよ!みたいな感じじゃあない。
- 高
そういうポップス然としたものでは無いっていうのがやっぱり、なんだろね、新鮮に感じる要素でもあるかも。
“ルームサービス”はどっちかっていうと平凡とも言えるコード進行の曲だけど、リフありきのものとして聞けるっていうのかな。ボーナストラックのグランジバージョンを聴くと、ああなるほどと思って。そういう意味でより説得力を感じた。僕はグランジ的なものって全然馴染みがないんですが、これすごくいいですね。ギターの音色だけで聴けるっていうか、ギターの音めちゃくちゃいいよね。 - 星 楽器の音、よく出来てますよねー。最後ピアノが入るもんね?
- 杉 いやあのあれピアノに聞こえるけど、アコギとエレキをオクターブで重ねたらたまたまピアノに聞こえる風になっちゃった。ありえないハイフレットにカポをして、アルペジオの余韻が残るようにして弾いてるからピアノっぽく聞こえるのかもしれない。
- 星
へー!そういう音なんだ。言われてみればピアノっぽいけどなんか違う。
比べると、やっぱり本編バージョンの方が寂しげ感ありますよね… - 高
でもこの曲がある事で落ち着くってのがある。
あと、(歌詞に出てくる)シカモアってのいうのは調べました(笑) - 杉 あーそうですか!これもツインピークスネタですいません。
- 高
そうなんだ?ベイマツ(註:“ディクタフォン”で登場)も、いい植物の名前が使われてると思うんだけど。
シカモアはギターの材としても使われているんですよね? - 杉 あっそうなんですね?
- 高 ですよね?あれ?知らないの!?
- 杉 知らないっす(笑)
- 星 シカモアはツインピークスネタだもんね。7本シカモアが生えてる木の間が異次元に行く入り口になってるんですよ。
- 高
へぇー。ギターの材として、メープルとかシカモアとか、調べてたら出てきて、これもしかしてグランジバージョンが元だから、シカモアなのかなあとか思って(笑)
…次の曲(“ディクタフォン”)は、星君のボーカルが素晴らしいと思います。女子受けしますよ。星君の声は。 - 星 自分が書いた曲だから、自分の歌いやすい音域なのがたぶん良かったのかなと。でも自分の声ってすごい変な声だなって録音すると思いますね。恥ずかしい恥ずかしいって思って聞いてます(笑)
- 高 そうなの?二人の声の相性もいいですよね。
- 星 確かに“ゴンドラ”とかは、どっちがどっちの声だか分からない感じになってますよね。
- 高 いや結構特徴あるよ二人とも。で、すごくいい声。二人とも。なんか上から言ってるようだけど、何様って感じだけど(笑)
- 星 いやぁーありがとうございます!うれしい!そんなに褒めてもらったら、今日からあんまり恥ずかしがらなくてよくなります…
- 高 恥ずかしくないです!絶対恥ずかしくないですよ。
- 杉 これも録りの段階で、どれくらい声を張るのが正解か、どれくらい口を「え」に近づけるのか「お」に近づけるのかが適正かとかで結構ブレたんですけど、なんとか。
- 星 前に録音したやつは口の開き方を「お」っぽくし過ぎちゃって…みたいなこと言ってたね(笑)どういう事か分からなかったけど、ほとんど「お」って言ってるほうに聞こえるんだあれはよくなかったなーみたいな事を言ってました(笑)
- 杉 空気を介して聴くのと違うモニタリングで歌うので、その辺が、普段「このくらいの声を出すとこうなる」って感覚となんか違ってて…
- 星 僕は歌を録って音源になるなんて初めてだったから、とにかく恥ずかしいというか新鮮というか…
- 杉 スパルタで録らせて頂きました(笑)星家のウォークインクローゼットの奥にマイクを下げて、一応ドアしめて、外からプレイバックのマイクで指示を出しながら、間違えると容赦なく曲が止まるっていう。「今のちょっと外れすぎ」とか
- 高
この“ディクタフォン”もだし、“ニューシューズ”もそうだし、スローな曲がどちらも名曲ですね。いい曲だと思ったとき「名曲」とか言うのが好きじゃないんですが、ここは分かりやすさを意識して名曲だと言ってみよう。(裏ジャケの“デート”を指さして)この曲もかっこいいよね。頭の出だしから掴まれる。前の曲からのつながりもバシッと。
“デート”が終わった後に“ニューシューズ”の「ぽーん」がくるのもすごいいいです。“デート”は間奏明けの部分、とっても好きなんだけど、ここってどうなってるの?ここちょっと違うでしょ? - 杉 はい。転調してます。
- 高 転調している。でその次の所戻ってたよね?
- 杉
戻ってはないです。転調先のOKラインに従ってちょっと変わります。
2番のサビとその後のパートのつながりと、3番サビからアウトロへのつながりは位置関係が違います。
できるだけ新規パートを増やさずに、同じ部品をちょっと変えて使い回すっていうのは、割とこだわっている部分の一つではあります。同じフレーズを違う流れの中で使うっていう。 - 高 その辺がすごいうまいなーと思って。この後かな、コードが二つ挟まる所、あれかっこいい。
- 杉 一回目のサビの後(註:1拍ずつE→Cと入る箇所)ですね。いい具合に決めたなぁ。(笑)これはハードロックのイメージですね。
- 高 あーそっか、それさすがの杉山コードっていうやつ(笑)なんていうのかな、次につながる所をちょっと意外な落とし方するっていう、うまいなぁ。
04 グルーヴ?
- 高 全体に、すごくグルーヴがあるから楽しいってのもあるんだけど
- 星 わ!そうすか!
- 杉 ええ…!?
- 高 それは、最初に杉山君にも伝えたんだけど、音符の長さなんだよね。何でヤオヤ(=TR-808)が気持ちいいグルーヴがあるかっていうと、音圧も大きな要因だとして、あれタイミングは全部スクエアなんだけど、長さっていうか、短さっていうかさ、あれでグルーヴがすごく出てるっていうのがあると僕は思っているんだけど、そういう音符の長さが物凄くやってあるなって感じ。
- 杉 言われてみれば確かに一個一個気にしてる所ですね。星君の出す音を「そこ長すぎる!」って止めたり。
- 高 基本的にはあんまりずらしたり、微妙にずれとか遅らせたりみたいな事しないの?
- 杉 その次元に至ってないですね。ずれてしまうので、コントロールできないっていう。
- 高 じゃあ、どっちかっていうとリズムの取り方はスクエアだと。だけど、音符の長さによってグルーヴを出してるなっていう。それでスーッと気持ち良く聴けるっていうのがある。
- 杉 でもさっき挙がった“デート”の特にアウトロあたり、ほんとにズレズレで…このアルバムのmost危ういタイムです。
- 高 ん!これは!って。危ういんだけど、ここは直さない…(笑)
- 杉 もうこれはどうしていいか分からないくらいダメで…でもこれをめちゃくちゃ綺麗にぶった切ってクオンタイズしたら、もう嘘だなって思って。ここまでなってしまっている物は、最低限のところまで持ってきて、あとはそのまま公表してしまえっていう。
- 高 その辺をやらなかったのは、ログメンの尊厳に関わることでもあるね。
- 星
最初録った時は何回も録り直すんだろうなって思ってたのに、大体一発で、一回演奏してススっと終わってって。はい録れた、はい録れたって。結局何度も録り直したものって無いもんね?データが消えちゃったのとかはあるけど(笑)
音源だけ綺麗にしても、結局ライブの時にグダグダーってなると残念なことになるから、いいんですけど。 - 杉 っていうのもあるし、最初ミックスやりかけた時点で、綺麗にしすぎると打ち込みみたいになっちゃうなと思って。ちょっとよれがある方が、生身でやってるんだって感じになるだろうなと。
- 高
成り立ちとしてはさ、ライブがあって、二人で演奏できるだけの物で曲ができている訳で。そういう事がすごく重要なんじゃないかな。だから今回のアルバムに関しては、あくまでそこをベースにしていると。ライブを見ていて音源聴く人は、その辺でも楽しめるし、逆に音源から聴いてライブ見たらあー!うわー!これ全部やってんだーやっぱやってんだ…みたいなことになる。(笑)
で、まあライブは見て欲しいと思う。ライブは見て欲しいと個人的には思う。まぁ、見なきゃ話にならんな。 - 星 もっとね、ちゃんとしたクオリティのライブをお見せしたい…
- 杉 ね…ちゃんといいものをね、お届けしてみたいなぁ…
- 星 でも、ついこの間の良かったよね?かつてないぐらい、ちゃんと出来ちゃった。とてもリラックスして。
- 杉 あ、この間(11月8日 KDハポン)のね。でも果たして困ってない我々が面白いのかっていう(笑)淡々とやるのもあれだなって思って。頂点まで頑張った結果が届けられてくる、みたいに見えることも重要かなと。
- 高 うまく行く時といかん時があっていいんじゃないかなーと思っちゃうんだよね。でもこれさ、いつまで続けるのかな?どんどんおっさんになってって、研ぎ澄まされてって名人芸みたいになるのもどうなのかなと(笑)それもすごいかもしれんけど。
- 星 ニューヨークの街角にいる何もかも自分でやっちゃうおじさんみたいのが二人いるっていう
- 高 あとそっちじゃなくて、緩んでく方向もおもしろいと思う(笑)
- 星 杉山君がバスドラを踏む位置を完全に間違えてるみたいな(笑)
- 杉 床しか踏んでない!みたいな(笑)そりゃちょっと医者にかからないかん。
- 星 そんなに永く出来たら面白いすね
- 高 そんな長い歴史の1ページ目を今、我々は見てるんですよ。
- 杉 いや~… 本当に次回作は25年後じゃねーかっていう(笑)
(つづく)