高倉氏と音楽の話をすると、音響・演奏・歴史などさまざまな軸で、俯瞰と拡大視をどちらも(決して論理先行ではなく、むしろ体感から得たものの見方で)やりながら、どうにも独特のポイントに反応を示すのがとにかく面白い。それは氏が率いているGUIROの音楽性にもむろん反映されているところ。
GUIROがアルバム「Album」(2007年)を制作・発表した頃に、メンバー星は名古屋のライブ/イベントスペース・KDハポンのPAスタッフをしており、リリースにともなう公演で名古屋のほか東京や関西方面にも、PA担当として星が同行したことがある。
杉山はログメン以前から活動している自称メタルバンド・DOIMOIでGUIROとの共演歴があり(2008年、出演はほかに24-two four-とmudy on the 昨晩)、その後約8年を経て河合慎五氏(カタリカタリ/百景借景/しょうにゅうどう、GUIROでもコーラスとして参加)との3人でTRIOLLIというグループを結成、創作と演奏と長距離移動を数か月のあいだ共にしていた。(2017年末現在は開店休業状態)
メンバー二人ともの感性や人となりをある程度知っていて、ライブも度々見たことがある立場から、アルバムの大局から詳細に至るまで、氏ならではの細やかな洞察からの感想を多数聞かせていただいた。
01 アートワーク、歌詞、「ツイン・ピークス」との関連性
- 高倉一修氏(以下 高) このジャケは杉山君なんだよね?
- 杉山明弘(以下 杉) そうです。手首とか、ちゃんと絵を描く人からするともう詰めが甘すぎて…
- 星裕久(以下 星) (笑)なんかそういう絵じゃないから
- 高 うん、そこがいいんじゃないでしょうか。このタッチといい、結果的にスカスカ感がすごく合ってるっていうかさ。
- 杉 筆ペンで描いて、それをスキャンしたのをベクトル化したので、ちょっと版画風になってます。最初は、使うか使わないか分からない写真をいっぱい撮って、その組み合わせで作ろうとしたんですけど、すごい寂しい出来にしかならなくて。そこから何故絵にシフトしたのか、きっかけは忘れたけど。
- 星 もともとは僕が絵にしようって。枠があって、その中に絵が描いてあるみたいのがいいなーと思ったんだけど、(撮った写真素材の構図との)合体技で杉山君が急にこれを描いてきたから、これだ!って。
- 杉 そこから完成までには、侃々諤々のですね…(笑)アルバムタイトルが絵の中に入ってたほうがいいとか、もっと物を足したいとか色々あったんですけど。そういう意見が出るたびに「それを入れると天地感がおかしくなる」とか、「それをそうするのは『ツイン・ピークス』的に違う」とか。(註:ログメンは、デイヴィッド・リンチ監督の海外ドラマ/映画「ツイン・ピークス」の雰囲気をテーマに据えている)
- 星 この何かのシミみたいな点を一個増やすか否かとか。鍵が一個だけ枠から飛び出てるのは、他のも飛び出させた方がバランスいいんじゃない?ってきいたら「鍵だけは特別なんだ、意味があるから」ってなったり(笑)
- 高 その辺がちょっと、僕が分からなくて残念な所なんですけど。ツインピークスの事を全く知らないっていう。
- 星 全然大丈夫です(笑)杉山君のこだわり方は、たぶん普通にツインピークスを知ってる人でも全然分からないと思うんですよ。でもそれをいっぱい散りばめる事で、なんとなく雰囲気が伝わるって感じにはなってる気がするけど…
- 高 裏ジャケのアルファベットがひっくり返ってるのも全部そういう事?これってさ、めちゃくちゃいじわるにも見えるんだけど。ただのひっくり返しじゃないんですよ。海外の方から見ても、普通やらないんでは。(註:水平方向に反転したアルファベットが左→右の順に並んでおり、単なる鏡文字とは異なる)
- 杉 ツインピークスの話の中で、よくわからないスピリチュアルな世界というか部屋というかそういう所があって、そこの登場人物は、普通に喋った言葉を逆再生したものを真似して喋って、それをさらに逆再生したものがセリフになってて、最終的にはちゃんとした単語を言ってるんだけど響きは変、みたいな話し方なんです。なので、1文字単位では裏返ってるけど、それが普通どおり左から右に進んでいくんです。
- 星 ボーナストラック入る前に杉山君が「Let's Rock」って言ってるんですけど、あれもちゃんと逆再生語なんですよ。なんて言うと「Let's Rock」になるの?
- 杉 「くほーる、すてーる」みたいな。自分で普通に喋ったのを録音して、裏返して、それを耳コピして真似して喋ってるんです。
- 高 ほおーー色んな事やってるねえ、ほんと細かいね(笑)そのボーナスの…ボーナスの話をしちゃいかんのかも知れんけど…あれ(註:物音のみの10トラック目)も一生懸命聞いたんですけど、あの車が走った音の後のセリフ、あれは何言ってるか知りたいじゃない。
- 杉 それもツインピークスネタで、…ログメンに登場するツインピークスネタは別に「引用してみた」以上の深みは何にもないんですけど。最終回で登場人物が別世界に行く手前に発するセリフなんです。そのまんまの音声は使えないので、自分で同じように喋って。「もうそろそろちょうど430マイルだ(Almost exactly four hundred and thirty miles)」って言うんですけど。で、そのトラックの長さを4分30秒にしたっていう。
- 星 誰も気がつかないですよね(笑)
- 高 はあーーなるほどー… almostとexactly、あと30 milesも聞き取れたんだけど、その間が分からなくて。その前の曲からも繋がってるような気がするような、そういう内容かなって思ったんですが。
- 杉 何も意図は無いんですけど、本編最後の曲(=9曲目“ディクタフォン”)は運転している最中の様子の歌で、その後(=10トラック目)エンジン音が入ってるので、確かにつながってますね。
- 高
そういう繋がりが感じられてしまうと面白みがね、倍増するんですよ。だけど、またここでいじわるがあって。あの、こっちが勝手にいじわると言ってるだけなんだけど…歌詞は、見たいです。
歌詞カードが無いって事はどうなんだ?と思って見てみると、ここにあるっていう。(註:デジパックのディスク側の透明トレー下に、ディスクに完全に隠れる形で、極めて小さい文字が渦巻き状に配置されている)でも、読みたくない(笑) - 星 (笑)お怒りはごもっともです
- 杉 ここ(デジパックを開いたジャケット側)にポケットを作るのはやめようと話してて、かといってペライチの歌詞カードをただ挟むのも落っこちるし。じゃあ、ってことで歌詞をディスクトレー下に収めるにあたって、普通にまっすぐな行でレイアウトして、折り返しが細かくても読みづらいし、下の方が変に余るのもいやだなと思って。だったらってことで外側かららせん状にして真ん中を綺麗に残して、そうしたらちょうど丸太(=ログ)っぽくなって。
- 高 二人のクレジットも詳しく書かれてないので分からないんですけど、歌詞って…
- 星 最後の曲は僕が作ってて、歌詞も僕が書いてますね。それ以外は、杉山君が作曲と作詞を。
- 杉 でも歌詞の内容そのものにはそんなに、特になにか伝えたいとかじゃなく。
- 高 でも、全然意味のない歌詞じゃないんだよね。結構どの曲も妙な読み甲斐があって、「こんな歌詞がこんな歌われ方ではまってるんだ」ってなる。創意工夫をそこここに感じてしまうんです。歌詞の持つ意味はさておきかもしれないけど、音楽の一要素としてここまで色々やってるっていうのは読んでみて初めて分かる。
- 星 (笑)歌詞に注目されるとは思わなかったね
- 杉 そうそう、歌詞は本当に、無いと困るから付けてるものでしかないんですけど…「いやじゃないもの」にする為にはすごい頑張ってますけど。
- 高
うん、そうそうそう。ただの意味のない言葉の羅列にするっていうのは、多分杉山君はいやな人だとは思ってて。面白いものにしたいっていう意図も感じられる。それが、結構な凝りようがそこにあるなーと思うんだよね。今回プリントアウトして読んだらとても面白くて。webで載せるのもありなんじゃないのかなとか思ったりね。語尾を引っ掛けて前の文と繋げてあったりしてパッと聴きでは分からないのとか、あんまり親しんでない言葉とかがほろっと出てきたりもするので、文字で見ると、ほお!ほおー!と思って。
歌詞と曲との結び付き方には色々あっていいと思っているのだけど、ある意味機能的、それでいてなんだか可笑しみもある。これは魅力の部分なのではと思います。 - 星 なんて言ってるんだろう、みたいな所ですかね。杉山君はいまだにライブ中に歌詞を覚えてくれないんですよ。この間やっと覚えてきたなーって言ってたくらいだもんね。歌詞カード立てみたいのが無いと、僕らはライブやれないんですよ。(註:アームの両端にクリップがついているハンダ作業用の補助具に、二人それぞれの方を向けて歌詞カードをはさんで立てている)あれのおかげで何度失敗したかっていう(笑)
- 杉 そうそうそう、曲をやり始めたのにまだ歌詞が差し替わってなかったとか。見にくい角度になってたりすると、ずっと集中できない(笑)
- 星 歌詞がそんなに読むと面白いというのは、物語性の面でっていう意味でですか?
- 高 いや、あー「世界観」っていう言葉今さら使いたくないんだけど、それが一貫してる感じはすごくある。
- 杉
それはやっぱりテーマがあるからですかね。関係ない曲もあるんですけど、そういう曲も雰囲気はツインピークスっぽいものになるようにしてます。
お気に入りのパンチラインとかあるんですか? - 高 というより、どこを切っても面白くて。例えばこの曲、“ゴンドラ”。意味は無いのかもしれないけど、これ歌詞見れた方が絶対いいです。見れないと何歌ってるか全く分からないし。で一緒に歌ってみるとその身体性も味わえたりする。
- 杉 これ、ちなみに、1番はずっとあ行しか言ってなくて、2番はあ行→い行→う行→え行→お行→あ行になるっていうのがテーマにあって。そこは言われなきゃ伝わらないですよね
- 高 へー!うん、言われなきゃ分かんない。でも、花束とか傘にすごいこだわってる(笑)
- 杉 言う事がなくて同じ単語を何度も出してきたっていう。あと何となく完全にナンセンスなのも何なので、同じ枠の中にいる風に作り足していったって感じですかね。
- 高 そこはやっぱり、さすがだなって思ったわけなんですよ。「歌詞として成立させようという意思がちゃんと反映されてる」っていうことが、曲をどれだけ生かしてるかっていう。
02 作曲・録音・サウンドプロダクションについて
- 高 TRIOLLIでちょっと一緒にやらせてもらって、“33.3”が完成していく過程を見てきたわけだけど…(註:今作収録の“33.3”はTRIOLLIで最初に演奏された)
- 星 その曲すごいんですよ。意図せず収録時間が3分33秒になってるんです。それを杉山君自身は気づいてなかった(笑)
- 杉 そう昨日知った(笑)
- 高
こわいねー(笑)そういうのは働くよね、しばしば。歌詞の話だけに終始してもあれなんで、とりあえずこの曲の事をもうちょっと言いたいんだけど。音源頂いてからずっとスピーカーから聴いてて、昨日初めてヘッドフォンで聴いたんです。聴く前から普通に、空気通して聴いてる時も、すごい音がいいなって思ってた。
いい音っていうのも人それぞれだよね。自分の中の「いい音」フィルターみたいなのがいいって感じてるだけで。僕がいいなって思う時って、大抵ドライな(=残響がなく近くに聴こえるような)音なんだよね。曲によっては“ニューシューズ”みたいに、ちゃんとリバーブを効果的に使ってる曲もあるんだけど、おおむねドライ。とは言え全くゼロではない。あと機材(楽器)としてはチープと言っていい機材なんだけど、まったくもって十分な音像に聞こえるように仕上げてある。すげーって思って(笑) - 杉星 (笑)
- 高 この曲(“33.3”)は、最初の歌がひとしきりあって、その後ちょっとインスト部分があると思うんだけど、インスト部分の音色の組み立ての兼ね合いみたいのがめちゃくちゃかっこいい。
- 杉 そうですか!ちょっとクラビっぽい音がうっすら…
- 高 あとベースがなんかノイズ成分が多いような音に聞こえるんだけど。
- 杉 サビみたいなところですかね?そこは、「ズドーッ」て感じが足りなかったので、オルガンをガチガチに歪ませたたものをちっちゃーくして入れました。気持ち的にはこのパートでこうやって盛り上がって欲しいって思いながら演奏するんだけど、音源だとその感じが出なくて。
- 高 この音色の組み立てはほんとにぐっと来ますね。他の曲もすごいなって思うんだけど、個人的には特にこの曲のここが。ただエッジが立ってるのとも違うし、派手な感じじゃない、全体としては抑えた感じに聞こえるんだけど、その渋さがまたいい収まり方をしている。それがこの部分に一番如実に出ていると感じました。
- 杉 隠し味に反応して頂くのは嬉しいですね。
- 高 あと、ベースの音の存在感は結構でかいなって思って、一曲目からなんですけど、すごくパンチのある音だなって思って、あれってもともとの音?そんなにいじってないんですか?
- 杉 そんなにはいじってないですね。もともとは結構低音寄りで、音程感のわかりやすい成分がいざ録ってみるとあんまり無いので、ちょっと歪ませて中高域を乗っけてるんです。
- 星 ライブで聴くよりもパンチがある感じになってますか?
- 高 全く別物として聴いてるから(比較は難しい)。自分の場合はライブを知ってて、それから音源を聴いたっていう順番なんだけど、多分音源から初めて聴くっていう人もこれから出てくると思うから、そういう耳で客観的に聴こうと努めてみたんですが、それでも過不足ない空間が作られていて。それってやっぱり杉山君がこれまで培ってきたスタジオ力みたいなものがあって、それがいかんなく発揮されてるのかなって。
- 杉 「何かが足りない感じ」をどうやって解決しよう、と思った時の手法にはそんなに困らなかったので、経験あっての事だとは思います。
- 高 それはとても大きいよね。DOIMOIで何枚?
- 杉 アルバムは3枚作りました。
- 高
他にも触れておきたいことが色々あるんですけど、例えばアルバム全体の曲構成。これがすごく考えられてるなと思ったんですよ…曲順か。流れがいいし、一曲一曲の構成も練られてるし、たるまない感じがずーっと続く。
曲間も、終わって次パンって入ってほしいタイミングで気持ち良くどれもくるから。曲間おおーって(笑)これ、分かる人多いんじゃないかな。気持ちいい、っていうのを感じる一つの要因。通して聴く時に結構大事なことですよね。 - 杉 曲順は結構二人で相談しました。僕はCD愛がありすぎるので、曲間への意識はやっぱり外せないっすね。
- 星 そうだね、iPodとかで聴くと曲間も何もなくなっちゃうもんね。だから、その辺りの繋がりがスムーズになるように、もともとイメージにはなかったけど曲の頭にノイズを入れようとか、カセットの録音ボタン押す音入れようとか、出来上がるギリギリになって急に色々やりだしちゃいましたね。
- 高 でもほんと無駄がない感じだなとは思う。この無駄のなさっていうのが隅々まで貫かれているのが、聴けば聴くほどまた聴きたくなるみたいな、そういう感じになってるので、皆さんにオススメしたい。
- 杉星 おお…(笑)
(つづく)