ANTHRAX来日に向けてどうしたらいい?という人向けの、ベスト盤レビューです。まず今回は80年代のスラッシュメタル時代を支えた2代目シンガー、ジョーイ・べラドナを含むメンツであるので、これではなくジョーイ時代の代表曲を余すところなく網羅した2枚組の「ANTHOLOGY: NO HIT WONDERS 1985-1991」の方を買っておくべきです。オリジナルアルバムを揃えるのはしんどいという人にもこの1枚で済ませたらどうでしょうとお勧めできる完璧さ。EPリリースのみだった"I'm The Man"や"Anthsocial"フランス語バージョンまで入っているとは、まじめに揃えたファンの方が悲しくなるほどです。でこちらの盤(「RETURN OF〜」)はどうかというと、グランジ時代を闘った3代目シンガーのジョン・ブッシュと、先述のジョーイとが共演を果たした"Ball Of Confusion"(TEMPTATIONSのカヴァー、このアルバムのみに収録)が入っているのが目玉で、あとはジョン時代(以下「80年代」)・ジョーイ時代(以下「90年代以降」)の曲が少しずつ入った中途半端な内容。90年代以降は、第1弾となった「SOUND OF WHITE NOISE」以外のアルバムではそうシングルヒットを出していないので、「NO HIT WONDERS」と「SOUND OF WHITE NOISE」を持っていればとりあえず今回のライブは楽しめると思います。それでもまだANTHRAXに興味があれば、90年代以降の残りのアルバムも全部買ったらよろしいです。80時代は、有名曲以外は確かに不発弾だなという曲が多かったですが、90年代以降の非シングル曲はなかなか遊びのバリエーションが豊富で、メタラーじゃない人が積極的に楽しめる内容になっていますので。やっぱり80年代のも別々のアルバムで全部買うか…ということになっても、「NO HIT WONDERS」はリマスターであるし、「I'M THE MAN」や「PENIKUFESIN」や「ATTACK OF THE KILLER B'S」などの企画盤にしか入っていない音源の中でも特に肝心なものを押さえてくれているので、オリジナルアルバムと重複して所有することになっても悪くない品です。ということで"Ball Of Confusion"に釣られたり、全時代フォローしているからいいじゃんといってこの「RETURN OF〜」は買わないように。ということでした。リマスターなのか知らないですが音の改変もちょっと好ましくないです。
以下、ANTHRAXを知る上で見逃せない、EP・企画盤のみの収録曲。
本日のレビュー:WHITESNAKE「1987 / SLIP OF THE TONGUE」[AXE KILLER Remaster]
言わずと知れたWHITESNAKEの、言わずもがな代表作である「1987」(日米ではセルフタイトルまたは「サーペンス・アルバス」。「1987」は本来は曲順違いのヨーロッパ盤につけられたタイトル)とその次の「SLIP OF THE TONGUEのカップリングリイシューです。本編の内容については浅めにしておきましょう。サイクスが絡むまでに積み上げたキャリアこそWHITESNAKEだと思っている身には単なるヒット曲集くらいにしか思えないのが「1987」(一番好きな曲は"Give Me All Your Love")、デヴィ・カヴァ本人をして「バンドじゃなくてサーカスショウだった、悪夢」と言わしめる「SLIP OF THE TONGUE」はDLRバンド時代の諸作と同じくコマーシャルな音楽性の中にスティーヴ・ヴァイの尽きぬクリエイティヴィティが堪能できるという目線で全然傑作。「1987」はどうしてこんなに音が悪いのか、キース・オールセンには責任とってほしい。ついでにこの盤では「SLIP〜」もリマスターで大幅改悪されてます。メインで書いておきたいのはこれがフランスのAXE KILLERからのリマスター再発だということです。どの再発も真っ黒のジャケに作り変えてしまう嬉しくない趣味をもつレーベルですが、ついでにもれなくレアなボーナストラックを追加してくるから侮れない。このアルバムは2枚組で計7曲が追加されていまして、それについて細かくご紹介します。まず「1987」自体が変則的な内容で、9曲入りのUS盤仕様の曲順を本体としたうえで、欧州盤のみ収録の2曲("Looking For Love"と"You're Gonna Break My Heart Again")がオマケ的に配置。その2曲と"Sweet Lady Luck"は、94年に発売されたベスト盤でも聴くことができました。その他なぜかただの既発曲2曲があるのは無視するとして、目玉は日本独自の編集盤「1987 VERSIONS」でのみ(シングルB面は除く)聴けた2曲、"Standing In The Shadow Of Love"のギター差し替え版と、FLEETWOOD MACもやっていた"Need Your Love So Bad"(リトル・ウィリー・ジョンのカバー)のシンセバージョン。特に後者!(※埋め込み再生禁止だったのでクリックしてYoutubeページへ移動してください)
これも84年バージョンと87年バージョンが存在するらしく、シンセではなくオルガンが入った84年バージョンは今やCDでは入手できない模様。まあシンセは安っぽいですが、デヴィ・カヴァの真の歌唱力が堪能できるいいテイクです。このシンセバージョンは、何やら最近発売された「SLIDE IT IN」の25周年記念エディションにも入っているとか。AXE KILLERリマスターは基本的に生産数限定のはずなので、興味を持ったかたは25周年のほうをどうぞ。
懐かしの一枚をおもむろに。メタルシチズンがデスメタル界の異変に気付き始めた93年、ジーン・ホグラン(ex.DARK ANGEL)+スティーヴ・ディジョルジオ(SADUS)+アンディ・ラロック(ex.KING DIAMOND)という最強の布陣でリリースしたテクニカル&メロディック・デスの金字塔「INDIVIDUAL THOUGHT PATTERNS」で一躍トップバンドになったDEATHが、メロデス7大バンド(EDGE OF SANITY、AMORPHIS、SENTENCED、AT THE GATES、DISSECTION、IN FLAMES、DARK TRANQUILLITY、だと思っています)もひとしきり出揃って温まったシーンに再度ぶつけてきたのがこの6thでした。余談ですが当時は、CARCASSがCATHEDRALがPARADISE LOSTがみんなどこまでいっちゃうのと目が離せなかった、エクストリームメタルのビッグバンみたいな数年間でしたねー。そこから先は、目につくところではせいぜい順列組み合わせか高圧縮化くらいしか行われていない気がします。最近のデスメタルをほとんど聴く気にならない最大の理由。本題に戻ってこのアルバム。アンディ・ラロックの代わりに入ったリードギタリストは現在はフロリダの大学でジャズを教えている人だそうで、言われてみれば確かに、物凄く流麗かつわずか〜にスウィング気味な軽妙さでスイスイとスケールアウトしてくれます。凄いなこの人、読み方わからんけど(つづりはBOBBY KOELBLE)。ベースのケリー・コンロンはMONSTROSITYやVITAL REMAINSなんかにも絡むことになる生粋のデスメタラー。巨漢グラサン激手数マシンのジーン・ホグラン(Ds.)は続投、そして孤高の英雄チャック・シュルディナー(R.I.P.)はといえば、より余裕のにじみ出た作曲をするようになってまさにミュージシャンとしてのピークにあります。BPMとかを見れば前作ほどの異常な勢いはないまでも、鉄壁の完成度はキレキレという言葉が相応しい。デスメタルの下敷きになっているアグレッションの芯だけ残して、ほとんど最近のNEVERMOREみたいなことをやっています。METALLICAのブラックアルバムやPANTERAの登場によってメタルサウンドのポップソング化が実現したその道筋を、エクストリームメタルの世界まで延長・開放したバンドのひとつがこの人達だったといえましょう。サウンドプロダクションの面でも、同じMORRISOUNDでの録音ながら今回からエンジニアがジム・モリスになり、クリア&ソリッドで量感もある仕上がりになっています。最近の、すべてが変に「マキシマイズ」された化調っぽい音とも違って安心感がありますね。展開は目まぐるしいわ、調性は一定してないわで、フック云々名曲云々という見方をすれば正直そこまで親切な内容ではないのですが、円熟とイノヴェイションの健康的な同居という1点だけでも充分素晴らしい盤でした。
▼本日の収穫、米アマゾンから到着のTHE BEATLES「THE BEATLES IN MONO」(モノラルミックスのリマスター10枚組ボックス)、「YELLOW SUBMARINE」「ABBEY ROAD」「LET IT BE」(いずれもリマスター)。人からすれば勝手にすればって話かもしれませんが、自分としては遂にこの時が来たと。足を踏み入れるなら全か無だろうってことで、全の最善と思われる買い方をしてみました。急に昔からのマニアだったみたいに「いやねえジョージがね…」などと語りだしたりする予定は今回はないです。
こんなときくらい珍しくSKID ROW(セバスチャン・バックのやつではなくてゲイリー・ムーアが70年代にやっていた方)でいこうかと思ったものの、やっぱり気分的にあんまりトリビュートにならなかったので聴き慣れたこちらを。THIN LIZZYでフィルの存在感以外の「ぽさ」の核が実はブライアン・ロバートソンだったことはWILD HORSESで明らかになっているので、これも結局あんまり相応しいチョイスではないのですが。「マシンガン・ピッキング」と呼ばれたトレードマークの速弾きはTHIN LIZZYではそれほど炸裂してないですが、その片鱗を伺わせる演奏はそこかしこに。ただ速いのではなくて、異常なクリアさが鋭さを際立たせてこその「マシンガン」であることです。それでいてこの弾き倒し感を醸し出す熱気。巧いギタリストのひとつの理想形なのかも知れんとこの歳になって気付きました。きっと違うけど暑苦しく粘っこいリッチー・コッツェンなのか。このアルバムはしかし何といっても"Sarah"がいい曲。フュージョンAOR風の優しい歌ものです。大学時代に学祭限定のコピーバンドでやったけど、生きてるうちになんべんでもやりたいですねこれは。ひとクセありつつビートロッキンな"Waiting For An Alibi"からの流れの素晴らしさは2011年の今さら敢えて言うに及ばず。
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6 Feb, 2011
▼少し前、DOIMOIのベース担当・篠田君がおもむろにMARSHALL JCM800のコンボ(もちろんギター用、彼はもともとギタリスト)を購入。それをワタシがライブで使ったほうが(今まで使っていた自分所有のMESA BOOGIE 50CALIBER+エクステンションキャビより)いいかもしれないという疑惑が最近浮上していて、それを徹底検証するべくスタジオに両者を持ち込んで比較したいという話をしたら、それなら身近な高級アンプ所有者に集まってもらおうということになって、ALLie/room501の竹岡君のFENDER DELUXE REVERB、a million milesの田島君のBAD CAT CUB II Rも一堂に会しての大・試奏会に(=写真)。これが滅茶苦茶有意義でした。ワタシのメサは結局生き残ることになりひと安心。24V駆動させたMI AUDIO「TUBE ZONE」のパワーも確認。
参加者全員テンション激上がりでしたが、実際ものすごく楽しいので、知り合いのバンドマンを誘って同様の会をドンドン催すといいです。▼夜はまたSTIFF SLACK横ABSENTEEにて、新川さん主催の店内ライブを見物。ソロライブはやったことなさそうだがギターと唄はできるようだというお客さんを事前に指名して、とにかく何かをやらせるという冒険的な試み。どうなるのか全く見当がつかなかったこともあって、想像以上に充実したオモロイベントになっていました。ナイスオーガナイズ&ナイスパフォーマンス。隠れた芸達者がまだまだポコポコといるものです。終了後はなんとなく予想された飛び入りタイム(といっても新川さんの強制指名)に突入し、トゥラリカ・アローン=タクミ君に続いて私もちょろっとやってきました。前回出演時の残りネタがあってよかった。何の打ち合わせもなくベース篠田君を巻き添えに歌わせてみたら見事やりきってくれました。彼は男の中の男。▼時系列は前後しますが、↑のイベントの前に、長らく行けていなかったら・けいこをひさびさに訪問。王道の汁ありのほうをオーダーしましたが、ヘヴィユーザーの竹岡君と田島君(アンプの会のあと、いったん解散してまた合流)はともに汁抜き+生卵。けっこう塩っ気の立つ醤油味なので、スープで味を全体にまわらせるよりは濃縮状態のまま卵のまろやかさでバランスを取るのが賢明なのかも。次はそうしよう。▼ABSENTEEでのイベント終了後は、出演者の4分の2を含むメンツでカラオケに雪崩れ込むというので追従。イベント本編以上の芸の炸裂を見た。しかしきょうびのカラオケはPANTERAに"A New Level"が、SEPULTURAに"Territory"が、METALLICAに"Sad But True"が入ってないのは納得いかないっすね。アルバム2曲目フェチとしては。
本日のレビュー:MATS/MORGAN BAND「THANKS FOR FLYING WITH US」
評判が良いらしかった05年作。先日ようやく買いました。冒頭曲が76年くらいの後発組フュージョンプログレ/ジャズロックの超モロスタイルで面食らいましたが、その後はMESHUGGAHがブルガリアで修行したかのような音飛び風ズタズタ変拍子を惜しみなく注ぎ込みつつ、テクノ/エレクトロニカの「らしい」部分を突いた和音使いを多発するシンセをザッパくずれのアホっぽさで鳴らし、踊らせたいのか踊らせまいなのかまったく不明。そこにやっぱり中後期RETURN TO FOREVERラインの正統派フュージョンテイストが「どーもお騒がせしてます」とばかりに出てきてはまた去っていくという。遊びまくるだけではなくて、冗談のキツさをまっとうに楽曲性の凄みとしているあたり、もはや名人芸の域です。プログレ/ジャズロック/フュージョン/トラッドロック/マスロックがやんわりクロスオーヴァーするこの手の体力系変拍子音楽の30年間くらいをグルッと統括してくれた傑作でしょう。冗談キツいといえば、盲目のマッツ(Key.)が白杖を片手に飛行機の操縦席に着いている裏ジャケ。突き抜けてますなあ。
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