はじめに

本稿は、筆者であるギター担当・杉山が個人ブログに掲載した「MATERIALS SCIENCE」全曲解説に、更に詳細な情報を付け加えたものです。

筆者の主観だけから書かれたものであり、かなりどうでもいい情報を積極的に含めようとする趣旨があることを、何卒あらかじめご了承ください。中古CD屋で試聴するときにブックレットやジャケットを漠然と眺めるのと同じ感覚で、熟読するでもなく目を通していただければと思います。

1) アルバムタイトルとアートワークについて

アルバムタイトル

いわゆる「アー写」の撮影地が、メンバー4人中3人の母校である名古屋大学内の建物「野依記念物質科学研究館(Noyori Materials Science Laboratory)」前で行われたことに由来します。

名古屋大学 野依記念物質科学研究館 (Noyori Materials Science Laboratory)前

物質科学何ぞやということに関しては、Wikipediaおよび名古屋大学物質科学国際研究センターホームページ内「研究」の項などを参照してください。なんとなく辻褄が合うから良いのではないか。と考えて、特にメンバーと相談することもなく採用に至りました。

アートワーク

過剰にメタルっぽいと若干引かれ気味の今回のジャケですが、初期案は全然違う感じだったりしました(画像参照)。全部で3案くらい、テクスチャ素材サイトの画像を使って作ったものをメンバーに提示したところ、今回もまた素材サイトかよ、グラフィックから自作せえ、とのお叱りを受けて変更することに。

ということで土台の写真は、大学のバンドサークルのOBで合宿に行った愛知県佐久島で(携帯で)撮ったものを使っています。オモテ以外の全面も、同じく佐久島滞在中の写真で無駄に揃えてみました。全体的に物々しくなったため、ディスク裏の面はかわいくヒトデにしてみたつもりが、メンバーからは「これ全部ひからびた死骸ですね」との指摘がありました。

ちなみに輸入盤(オリジナル盤)至上主義を唱える私ですので、国内盤ならではの記載必須事項をどう目立たなくするかという点に全精力を注いでいます。以下、こだわった点を挙げていきます。

2) レコーディング・ミックス・マスタリングについて

レコーディングとミキシング

レコーディングとミックスはギター杉山が担当しています。普段の練習に愛用している名古屋・鶴舞(新栄)リフレクトスタジオの一室に機材を持ち込んで行います。録音機器はZOOM R16。本当に使いやすくて心から重宝しています。マイクとケーブルは以下のとおり。

ギターは先述のR16、ベースはR8をオーディオインターフェイスとして使い、普段のセッティングどおりに歪ませたものをライン録りしています。そこから鮮やかにリアンプを決めるつもりが、そんな時間すらなく、インパルスレスポンス式のキャビネット・シミュレータのプラグインで最終的な音を作っています。

ミックス環境はCubase LE5と無数のフリープラグインで。VSTエフェクトはVARIETY OF SOUNDDIGITALFISHPHONESANTRESSの御三家が本当に神すぎて凄いです。

マスタリング

今回はレーベルからの紹介でM's Disk Msteringさんにお願いしました。この日に現地立ち会いと決めた日の前の夜にトラックダウン音源の大規模やり直しを開始してしまい、ほぼ徹夜の作業の末、朝8時過ぎに乗る予定の新幹線に11時半に乗って現地へ向かうというドタバタ進行でした。

立ち会い当日はこちらの要望を汲み入れていただいて(参考として持参したCDはSILVERCHAIRの「FREAK SHOW」とRIDDLE OF STEELの「1985」)、自分も確認しながら作業していたつもりが、2日後に届いたCD-Rを自宅の環境で聴いたら現地でのイメージとかなり違いがあって、2度も修正をお願いするという何様ぶりを発揮してしまったことが、今回の制作にまつわる最も申し訳ないストーリーのひとつです。

3) 楽曲紹介 A面

1. 帆影 / Black Sails

自転車走行中が一番作曲モードになれるのに通勤時間10分の会社を選んでしまった私は、数年前から、休日の朝早くに起きだして一人自転車で出かけるという「作曲サイクリング」を実践してきました。

目的地がないと飽きるので、いわゆるモーニングを食べて帰ってきます。片道30分の距離にあるインドカレー屋・MAYA堀田店の350円モーニングの最高さをもっと広めたい。食パンじゃなくてナンロールとかちっちゃいカレー(!)ですからね。朝から。コメダコーヒー東郊通店のウインナーコーヒーは生クリームの盛りが凄くて、モーニングのパン用に卓上にイチゴジャムが常備してある。正月も2日か3日くらいから営業してくれてて、ズボンの下にモモヒキ的なやつを履いて出掛けました。

この曲はその「休日朝・作曲サイクリング」でできた曲です。くそ低速でドゥーミーですが。手本はフィンランドの元祖フュネラルドゥーム、THERGOTHON。「ここで2拍目のスネアくるか?というタイミングで1拍目裏のハットが入る絶望感」を醸し出すには、これでも少し速すぎました。

終盤の展開がとてもTRAINDODGEインスパイアなので、英題は彼らの「UNDER BLACK SAILS」EPから頂きました。メインボーカルのうしろでちっちゃくガテラル声のユニゾンが入っていることに気付いてもらいたい。

2. 円群 / Circles

作曲サイクリングで手詰まりになると、夜部屋を暗くして、脳内作業ではなくギターを持って、半分寝ているような精神状態で適当に弾いたコードやフレーズの断片から曲を膨らませる「暗室作曲」もやるようになりました。この曲はそれでできた曲。

まだ作りかけの頃、メンバーには「FIRESIDE+COPELANDみたいなクソエモい曲ができてしまった」と話していた記憶があります。エモすぎて引っ込みがつかなくなり、間奏でその熱量を邪悪さにすげ替えることで何とか「自称メタル」の体裁を保った次第。

しかし「自然な流れで転調を元に戻して、歌の牽引力によって最高潮を作らなければならない」というミッションを感じながらの間奏およびその前後部分の制作は、ひどい時間がかかりました。完成後はバンド全体で演奏できるようになるまでに相当な労力がかかり、レコーディングで作者の思い通りに録るのにまた大量の汗が流れました。途中の長いユニゾン部分では何を思い浮かべるでしょうか。作者の思いはDREAM THEATER+CONFESSORです。

英題はとくにひねりなし。「渦」という歌詞も出てくるので"Vertigo Circle"にしたい気持ちもあったけど、どう考えても蛇足だったので我慢。ちなみにイントネーションは「援軍」と同じではなくて「塩分」と同じでお願いします。

3. 静かな庭 / Still Garden

前のアルバムが出た直後くらいからライブではずっとやってきた、CLIMB THE MIND+SEPULTURA=「セパルマインド」が仮題だった曲。硬質リフに歌を強制搭載することはあっても、歌ありきの長めなコード進行の曲をDOIMOIでは作ったことがなかったので、それをやってみました。「この刻みにこのコード進行はないだろう」という攻めを分かってもらえると嬉しいです。

そのコードを高速16分スキッピングの奇数フレーズに分解した3コーラス目Aメロのバッキングが超むずかしいので、ライブで弾けてなかったら指をさして罵倒してください。1弦1ピッキングで隣の弦に移動、5音1フレーズ、オルタネイトを崩さないのでフレーズ頭のアップとダウンが入れ替わり続ける、という感じです。そこが実は学生時代にやっていたガニオテというバンドの""という曲と同じパターンだと認識しているのはたぶん作曲者本人だけ。

問題だったのは、「セパルマインド」に馴染みすぎてどういう正式タイトルをつけるかでした。1000年単位で時間が過ぎる内容のようだったので、「風の谷のナウシカ」の原作の、腐海の浄化の時(だいたい千年後)を待って植物や動物の種を保存する隠れ庭園のくだりからいただきました。7巻あたりをご参照ください。

4. 誓い / (Don't Break the) Oath

バンド最古曲のひとつ(本当に一番古いのは1作目収録の"人願う")をリメイクしました。当初はアルバム自体が、過去曲再録と新曲の半々でいくという話もあったくらいで、それで今回これと"オリンピック"が入っている次第です。「元バージョンが存在する曲をアグレッシブに作り変える」という意識があったせいか、一から作った新曲のどれよりもメタル調になってしまいました。

タイトルも心機一転短くして、英題はMERCIFUL FATEの名盤からいただいてます。日本語のほうもその邦題にあわせて「禁断の誓い」によっぽどしたかったけど、何周しても絶対微妙なので諦めました。名古屋の大須(おおす≒オース=OATH)に移転したDISK HEAVENの軒先にはそのジャケをあしらった看板が立っています。おしゃれ!

ところで、この曲はひとつも変拍子を入れてないのですが、「サビに入るところでオモテウラが反転するように感じる」との声を複数確認しています。平然と4をキープしていただければそれが作者のイメージどりですので、反転してしまう人はグッとこらえて4拍1周サイクルを維持していただくともうちょっといい曲に聴こえると思います!

5. ヴォルガにて / On Volga Shore

もともとはどマイナーキーの演歌みたいな曲でしたが、聴く人を当惑させるのではないかという懸念が拭えず。しかし基本的なリズムの感じはいいなと思っていたので、替え歌よろしく骨格以外をつけかえて生まれ変わってもらいました。

仕上がったアレンジはかつてないオマージュの嵐で、わかる人はニヤッとしてもらえればと思います。(おおむねSHINER~FAILUREの感じです。)ラストでちょろっと弾くオマケギターのワンフレーズはPRIDE AND GLORYの"Losin' Your Mind"の気持ち。ところどころサイケなコード展開が入っているのは、「もうこれ以上KING'S Xからの間接的影響じゃダメだ」と一念発起してTHE BEATLESのボックスセットを買ったことが影響しているつもりでいます。

歌詞は演歌の設定を引き継いで、ロケーションは北国の極端なやつ=ロシア。間奏でKING'S X経由のBEATLES成分(のサイケ部分)が入ったつもりなので、「過去に何事かがあって白夜の地にやって来て、アルコールその他に脳をやられてもうすっかり朦朧としている中年男」の視点ということにしています。

6. バベルの灯り / Lights of Babel

またSEPULTURAネタで、"Slave New World"の減速パートがもっと短かったらいいのに…という高校時代以来の願望をついに形にした曲です。やはり中高時代のモヤモヤが何だかんだで創作の原動力になっていると感じます。大槻ケンヂも「基本的には童貞時代のトラウマ解消」みたいなこと言っていた気がしますし。マックス・カヴァレラ意識型の咆哮ヴォーカルは私担当です。

前作にも「ゴモラ」がでてきたりと、ちょいちょい聖書が絡んでくる我々ですが、特にクリスチャンというわけではなく、「機動警察パトレイバー」の劇場版1作目からの影響です。ちなみに歌詞に登場する「崩れた石塔」がさすのはモヤシ、「生贄の四肢」はラード、「縄束」は麺。

4) 楽曲紹介 B面

7. オリンピック / Olympic

前作からの曲をマイナーチェンジして再収録。なので、アルバム発売とロンドンオリンピック開催がドン被りであることには何らの作為もありません。

前作でも本当はイントロにホーミーをつけたかったこの曲、今回ようやく成し遂げました。その他の主な違いはギターのチューニングで、今まで6弦のみ2音下げ(C)だったところを5弦も1音下げて(G)、5・6弦開放でCのパワーコードが鳴るようになってます。1コーラス目Aメロのバッキングがそれで理想の状態に。あとは会心のピッキングハーモニクスが録れて良かった。

誰にも指摘されていないことなので言いたくて自ら言いますが、この曲ができたときAメロにどうやってヴォーカルラインを乗せようか相当困りました。困った挙句、ANTHRAXの"Among The Linivg"のサビで、半音より細かい刻みで無理やり上昇していくあの感じを参考にしています。

8. オープンリール / Reel To Reel

前の会社での在職末期頃、なぜかオフィスでずっとFM放送が流されるようになり、電波に乗りやすいような流行歌(または電波に乗せて流行しているように装わせている音楽)を大量に聴くに至った結果、グッと来ると想定されているであろう部分の和声的解決が徹底的に同じ(IV→V→I)であることにいい加減吐きそうな毎日でした。

これはその状況になるより前にできた曲なので全然関係ないんですが、今までの作曲人生でいちばん転調してる曲です。あと、ギターソロがめちゃくちゃクリアな演奏で録れました。間違いなく私の人生にヤングギター誌があったおかげです。ありがとうございます。

9. 舞踏室 / Ballroom

英題のBallroomは、BRUTE FORCE STEEL BANDというカリプソグループのアルバム「MUSIC TO AWAKEN THE BALLROOM BEAST」からいただきました。それの1曲目が劇中で繰り返し使われているのが、TBSで93年に放送した「誰にも言えない」という大名作ドラマで、この曲の歌詞は全面的にそのドラマの世界観や出来事(テーマソングの一節も)が元ネタになっています。サビで作品名言ってしまってますし。

今にして思えば、作品全編を貫いていた「陰湿、ミステリアス、登場人物が変態」という演出は、ポスト・ツインピークス年代ならではのものだった気がして、トレモロがかったギターが乗ってくるのはそちらへのオマージュでもあります。ANTHRAXもツイン・ピークスに捧げた"Black Lodge"で同様にやっていました。"哀しみの恋人達"(ジェフ・ベック)の途中をスティーヴ・ヴァイかぶれが弾いたら的なつもりのギターソロもがんばりました。

10. 誰が傾いているか / Who's Tilting Now

変なタイトルですが、whoはFOO FIGHTERSのフー。tiltは永遠のあこがれバンド・RIDDLE OF STEELのメンバーが解散後に結成したバンド名から。正式な曲名が決まるまでのあいだ、メンバー間ではそうやって「この曲は誰々っぽい」というイメージをもとに仮題で呼ばわる習慣があって、この曲は「フーファイ2」でした(1はお蔵入りとして存在しています)。

で、"Who Tilts"ではそのまんますぎるので、JOURNEYの"Who's Crying Now"にあやかってこうなりました。(本当にどうでもいい話です…)

曲としては、サビのルートの動きでちょっとした実験をやっています。F→F#→G→A→D→F→F#→G→Aと、DをはさんでF・F#・G・Aのセットを2回弾いてます。その1回目ではFが4小節ひとまわりの頭、2回目は挿入されたDによって繰り下がるのでFは4小節ひとまわりの2つ目、という…たぶん文字では伝わりづらいと思いますが。

RUSHの"Limelight"という曲のサビが、G#→E→F#の循環なのですが、その区切れどころがこうなのです。ぜひ曲名のリンク先(Youtube)でも確認を。
G# E F# G# | E F# G#
E F# G# E | F# G# E F# | G# E F#
歌メロが乗ると、こんな3つのコードが循環しているだけとは全く気付かない、超おしゃれな試みじゃないですか?これを絶対やりたいと思い続けていて、ミニサイズではありますが今回この曲でやっと挑戦できました。

いったん止まって後半に低速パートが現れるという構成は、SOUNDGARDENの"Rusty Cage"オマージュで。

11. 遺跡 / Heritage

イントロの変拍子のパターンがRUSHの"YYZ"と完全に同じだったことにあとから気付いて、メンバー内でのワーキングタイトルがYYZになろうとしたこの曲。(RUSHファンは自分以外いないので、いまひとつ定着した感がなく「5拍子」とも呼んでいます)

サイクリング作曲でできたAメロ部分に、昔作ってボツにした曲のサビ部分を結合して完成しました。この「概ね気に入っているのにどこか一部分が悪くて泣く泣くボツにした曲」というのがひとたび発生すると、その後形を変えて2曲にも3曲にも部分流用されていくというお得現象がDOIMOIにはあります。この曲のサビのネタ元は前作ラストの"ストレスへのプレニテュード"とまったく一緒で、ゆえに完成したときから「これはアルバム最後」というイメージがついてまわって、実際そうなってしまいました。

間奏はフュージョン風にしてみたつもりで、完全に一時期アホほど聴き狂っていたEXIVIOUSの影響。ライブの対バンで両手タッピングまでは見ることがあっても、タッピングハーモニクスはそうそうないだろうということで、「俺もエディのコピーで練習したした!」と声をかけてもらえるのをずっと待っています。

5) 本稿に登場したアーティスト/作品まとめ

DOIMOI ホームページ
www.inurokuon.com/doimoi/

DOIMOI 「MATERIALS SCIENCE」特設ページ
www.inurokuon.com/doimoi/ms/

杉山 個人ブログ「SCSIDNIKUFESIN」
www.inurokuon.com/nfd/