グランジブームが世界中のミュージシャンに対して「これじゃないと食えない」または「いま巷にはこれしかない」という脅しをかけたおかげで、それなりにオーヴァーグラウンドでの活動を標榜していたこの頃のバンドの多くが、まっすぐ好きなものを追求するままに作ったのではない、「やってみっか」的なこの頃だけのダークさ・変化球・野生感 etc.をもった作品を残してくれているのが、ブーム衰退から20年は経とうという今でも興味の尽きないところです。
今回のこちらはノルウェーのバンド。93年のデビューミニに続く唯一のフルアルバムです(のちにデモ音源を含むコンプリートディスコグラフィもリリース)。
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ブーム後発組にも「もさもさした16ビートの野生性で押すPEARL JAM系」、「サバス+ツェッペリンを匂わすSOUNDGARDEN系」、「言い切りの繰り返し&微妙なところも全部パワーコードでいくNIRVANA系」(意外とこれが一番少数)、そこに随時JANE'S ADDICTIONぽいトロピカルファンクが混じってきたり、といろいろタイプがありますが、このJACK IN THE BOXは「元メタルを匂わせる、ハーモニー+整合感のALICE IN CHANS系」に大別されるでしょう。中から人形が飛び出すびっくり箱を意味するバンド名も、おのずとAICの"Man In The Box"を想起させます。
ただし、なんとなく耳にする感じをつないで高品質にまとめた程度のフォロワーではない。グランジに感化されてうまくいったメタル界隈の作品群の中でも、最高峰といえる内容じゃないでしょうか。
ダウンチューニングと休符の重力を有効に使いつつ、調性感のスキマを突くような複雑なハーモニーを乗りこなすギターリフがかなり普通でなく、強烈に耳を引きます。バッキングの域を超えてもはやサブヴォーカルともいえる存在感。初期デモはKING'S Xの影響が色濃かったそうで、なるほど納得です。気になり過ぎて調べたところ、このギタリスト、以前はBLIND ORPHANSというプログレメタルバンドを率いていたとのこと。(←リンク先のサイト、泣けるのでぜひ読んでください)
入り組んだリフにリズム隊がビッタリはりついただけでも充分そこらじゅうがフックだらけになるんですが、さらにその上をまたぐ明快な曲展開、新鮮にして必然さもある転調使いのおかげで、情報量のわりにすんなりポイントが伝わりやすい曲ばかり。長尺展開やグルーヴ推しの表現にも不足はなし。ダーク&へヴィ+αというお題のもと、知力・体力・アイディアがどうにも高次元で実を結んでおります。感服。
ヴォーカルはキレイにメロハーを歌えたりもしそうな、ざらつきと透明感を自由に使い分けるこれまた逸材。1曲だけテノールみたいな声で歌ってるのがあって、それも全然成立してます。たまーにレイン・ステイリー(ALICE IN CHAINS)を模写したり、ダグ・ピニック(KING'S X)になりきってソウルフルなシャウトをかましたりと、芸を持て余すほどの芸達者ながら、その後のキャリアではベース専任でブラックメタルバンドに参加したりと、正体不明なところも。
当時よほど売れたらしく、本国では未だに幻のスーパーバンドとして支持があるようで、おかげでCDも高騰せず中古で入手できます(冒頭でちょっと書いたディスコグラフィ盤は少数プレスだったらしく相場4000円超え)。ちなみにこの1枚で解散した後、ヴォーカルだけ入れ替えて名前もAUTOPULVERと改めて数作リリースしており、そちらはエレクトロ要素を含むパワーポップ路線。ベーシストはノルウェーなだけに再結成TNTに参加したりしています。
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オルタナメタル グランジ