SCSIDNIKUFESIN

15 Mar, 2013

予告どおり、今回も機材の話題で。これまたライブの共演をきっかけにお世話になっている東京のMIRRORのギタリスト・森さんが、趣味と実益を兼ねた電気・音響工作マニアで、先日遂に新宿NINE SPICESにて執り行われた森さんのシールド製作講習会ワンマンショーで登場した品々を、まとめてドカーンと借りて試奏させてもらえたのでした。
前回の日記のTRIALのペダル同様、その中から一番好みに合った品を実際に購入させてもらってます。既にFacebookにも簡易版を投稿済みですが、改めてこの日記でも詳しくリポートをば。
前提:シールドの役割認識
機材を紹介しているブログや小売店の文句を見ていると、あたかもシールドによって良い音が足されるような印象を受ける文面をたくさん見かけますが、信号がシールドを通ることで何が起きるのか、まずは正確に認識しておきたいものです。
  • ケーブルやプラグを経ることで起こるのは、大なり小なりの劣化(情報量の減少)のみ。ノイズ以外は何も足されない。
  • ケーブルの種類によって劣化の傾向に違いがあるということは、数値で測定できる事実である。(参考:MIRROR森さんが行ったBELDENシールドのL/C/R測定
  • 「とにかく劣化が少ないケーブル」よりも、「聴こえてほしい成分の劣化が限りなく少なく、不要な成分はそこそこ削られるケーブル」のほうが、その楽器にとって好ましい音=「良い音」に聞こえる場合がある。
ギターの場合、「歪み」を使うということもポイントになります。「どう歪ませるか」の手前の「どんな音を歪ませるか」が、シールド選びにかかっているといえます。歪んだあとの音をいじるのとは決定的な違いが生まれることもあるし、場合によってはつなぐペダルの数を減らせたりするかも知れない。
ということでなかなか侮れないシールド選び。以下、参考になれば幸いです。音の傾向を客観的に形容するには音響的な言葉を使うのが本来好ましいですが、ニュアンスをつかみやすくするために、人体への攻撃に例えてみました。表面だけでとどまるのか骨まで響くのか、自分が食らっているのを想像しながら読んでもらえるとよいかと。頭に近いほど高音域、足に近いほど低音域のイメージです。
BELDEN 8412: 頭をつかんで腹~下腹部にひざげり
「太い」「フルレンジでロスが少ない」「ギターにもいいけどベースによい」「海外の放送用ケーブルのスタンダード」「オーディオのRCAケーブルの定番」などとして知られる品。
中低域以下の存在感がしっかりあり、ギターに使ってもベーアン用スピーカーを一緒に鳴らしているような感じをともなう気がします。しかしこもる印象はなく、高音も出ている。ギターが1人だったり、スキマ多めのアンサンブルだったりと、単独で上から下まで広い音域をカバーしたいような場で使うと最適でしょう。強く歪ませると低域が飽和しがちかもしれない。
BELDEN 9395: 顔面にグーパンチ、ももにビンタ
エレクトリックギター用の王道的な存在。
ハイミドルの明るさ、アタッキーさが支配的で、歪ませるとパキーンという感じで中高域から先に耳に入ってくる印象です。いっぽう低音は積極的にスッキリめ。「軽いな」と思わない程度にコシはあり、この絶妙具合が人気の秘訣か。バンドアンサンブルの中で歪んだギターに求められがちなバランスと一致した傾向を持っていると思います。
BELDEN 9778: 頭にキルティング袋 肋骨~腹をグーパンチ
一般的には「明るい」「シャープ」などと言われがちなケーブル。
個体差もあるのかも知れませんが、私感としてはむしろローパスフィルターがかかったように高域がカットされる印象でした。更にローエンドが切られて、もう少し上のローミドルが膨らむバランスに感じます。アコギやキーボードなど、もともとレンジの広い楽器をアンサンブルの中でほどよくまとめるのに最適かもしれない。またはリードギターには、いい感じにマイルド&リッチなトーンをもたらすかもしれない。
BELDEN 8410: 腹にグーパンチ、顔面にビンタ
9395と並ぶギター用の裏定番か、としてじんわり認知されつつある注目株。
ハイミドルの明瞭さを持ちながら、8412をもう少しスッキリさせたような低域。いい具合にポイントが絞れているのか、歪ませても低音が周りを食いつぶすことなく、明るさが保たれます。割とオールラウンドにいける印象です。
BELDEN 8402(方向あり): 顔面にバケツの水、ももにビンタ
これはなかなかのレア種だそうです。森さん曰く「8412の先祖で、かなり古い設計らしく、シールド線も8412とは異なる黒光りした物を使ってた。TOMOCAが特注でBELDENに出しているらしく、海外でも滅多に手に入らないらしい。」との事。
薄いと感じないギリギリのところまでスッキリした低域と、高音はギラギラとうるさいわけではないが倍音の天井が高い印象で、とにかく開放感が独特。ハムバッカー×ハイゲインの組み合わせってパワーはあるけどギターらしいジャリつきがどっか行ってしまうよな~、と悩んでいたワタシを見事救済してくれました。ディストーション乗り最高。ただし値段はBELDENのよく見かける種類より若干高めですが、それでも捨てがたく、これのフルセットを森さんに注文して購入した次第です。
BELDEN 8402(方向なし): 顔面にビンタ、ももにグーパンチ
8412と同じく方向性をもたせられる8402は、方向性のありなしでけっこう違いがわかります。なしにすると、上寄りにパァ~っと開いていたのが若干グッと詰まった印象になり、方向性ありと8410との中間のような感じになります。
BELDEN 9394: 顔面にハリセン
パッチ用に向きそうな細いケーブル。明るく、軽いです。悪く言うと古くてチープな感じもします。敢えてこれを選ぶ場面もあるかも知れないですが、ハイファイからは遠ざかる方向にあるキャラクターです。
カナレ: 肋骨~腹を上履き袋で殴る
日本のオーディオ用ケーブルの大定番。
ここからという境界がない感じで上と下がなだらかに削れて、自然にミドルが残っているとの印象。「ミドルがふくらみ気味に感じる」というほどの積極的なキャラではなく、一聴するとバランスはとれています。ただバンドメンバー皆がこれを使っていると、全体の抜けが良くなさそう。
モガミ: 顔~頭と腹をビンタ
番号があったかもしれませんが失念です。国産のハイファイかつ高すぎないオーディオケーブルの代表選手。
飛び抜けてどこかだけパワーがあるという積極性はないながら(なんとなくBELDEN偏重なバイアスがかかってるゆえの感想かもと)、高域を中心にバランスよくまとまっている印象で、情報量は充分。フラット感にはかなり長けている部類かと思います。
▼以上でした。用途や環境によっては、ここでネガティブ寄りに読み取れることが、良い特徴に転じることもあります(逆も然り)。お使いのアンプやペダルの癖や、バンド全体の音をイメージしたうえで、適宜解釈してもらえればと思います。